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獣医からの言葉

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安楽死の部屋を出て、ミズ ビーがいる部屋に戻ると、まだ大学生みたいに若い女性の病院スタッフがミズ ビーの体を優しくなぜながら、笑顔で、
 
 
 
「  お利口さんでしたよ。」
 
 
 
と言った。
 
 
その女性がそこにいなくても、おそらく、ミズ ビーは動かなかっただろう。
 
 

しかしながら、

 
 
その女性は、気づかいから、そう言ったのだろうと思い、彼も彼女も、
 
 
 
「  ありがとう。」
 
 
 
と笑顔で返した。
 
 
そして、彼女は、ミズ ビーの頭を撫ぜながら、
 
 
 
「  本当に良く出来た犬だよね〜。ミズ ビーは! 」
 
 
 
そう言った。
 
 
ミズ ビーは、頭を彼女の手に何度か押し付けて、潤んだ目をしぼめるようにして、口から暖かい息を吐き出した。
 
 
こんなに動けなくなっても、
 
 
声も出なくなっても、
 
 
ひたすら褒められようと頑張っている、
 
 
そして、
 
 
褒められて、その感情を力一杯、表現しようとしている、
 
 
彼女は胸が一杯になり言葉に詰まった。
 
 
アシスタントは、部屋を出る前に、彼女の目を見て、
 
 
 
「  安楽死についての質問があったら、いつでも私に連絡して下さい。」
 
 
 
と言い、部屋を出てからも、ドアの窓から、彼女を見ながら、少し微笑むようにしてうなずいた。
 
 
彼女も同じようにして、うなずき返した。
 
 
それは、無言のありがとうでもあり、そう言われてしまう時まで来てしまったことへの悲しさをも意味していた。
 
 
その後、彼がミズ ビーを両手で抱え、彼女がリードとハーネスを持って、動物病院の待合室に座っていた飼い主とペット達の前をゆっくりと通り過ぎ、車へと向かった。
 
 
その時、彼女は、むしろ、微笑みさえ浮かべ、まるで、良い知らせを得たかのように胸を張って気丈に歩いた。
 
 

ペット達には、当然の事ながら、理由があって飼い主に連れられて動物病院に来ているはずだ。

 
 
予防注射や定期検診だけのペット達もいるだろうけれど、多かれ少なかれ健康に問題があって、そこに来ているのは、むしろ、当然と言えるだろう。
 
 
彼女は、そう思ったし、ミズ ビーが彼に抱えられている状態から、他人に、いろいろと憶測で同情されたくなかった。
 
 
ところが、彼女の演技の甲斐も無く、彼はと言うと、全く彼女とは反対に、
 
 
下を向き、苦痛に満ちたしかめっ面で、今にも泣き出しそうに顔を真っ赤にして、彼女の背後を歩いていた。
 
 
車に、みんなで乗り込むと、日本人ぽいアジア人女性が、車の外に立っていて、運転席にいる彼を泣きそうな顔をして、ただひたすら見つめていた。
 
 
あまりにも彼だけを長く見つめていたので、彼女が、彼に、
 
 
 
「  ねぇ、あの女性、あなたの知っている人じゃない?  あなたのこと、ずっと見つめているけど  」
 
 
 
と言って、その女性の方を向かせた。
 
 
彼は、チラッと、その女性を見て、
 
 
 
「  知らない 。 俺の容姿に、一目惚れしたんだろう。」
 
 
 
と冷めた口調で言って、ケイタイに、すぐに目を戻した。
 
 

その女性は、その後も、彼を、ただ泣きそうな顔をして見つめていたので、今度は、彼女が、その女性を微笑みながら見ると、女性は彼女に気がつき、彼女の微笑み返してくれるだろうと言った期待とは裏腹に、まるで、彼女が、その女性と彼のロマンティックな出会いの始まりを邪魔したかのように、怒った顔で彼女を睨んだ。

 
 
彼も彼女も全く知らないその女性が、彼を彼女の前で見つめて、彼女に怒っているのはマナー違反に思えた彼女は、彼に、
 
 
 
「  にらまれちゃった。 ねぇ、本当に、あの人を知らないの?  」
 
 
 
そう訊くと、彼が急に怪訝な顔をして、その女性を見た。
 
 
女性は、困ったような顔をして下を向き、その後、ペットの小型犬に目を集中して、彼を見ることを止めた。
 
 
その女性がペットと一緒で動物病院の駐車場にいたことから、女性は、彼と彼女を病院の中で見て、あるいは、二人の会話を聴いて、彼に恋をしたか、或いは、彼女に怒りをおぼえて彼に同情したのではないかと彼女は考えたが、
 
 
それを彼に言うと、
 
 
 
「  俺たちの問題じゃない。 何か問題のある女性なんだろう。 時間の無駄だから、あの女性のことは忘れろ。」
 
 
 
と、アッサリと言われてしまった。
 
 
車を駐車場から出して路上に出して走らせると、ずっと声を出すことがなかったミズ ビーが、突然、車の後方にあって、どんどん遠のいて行く動物病院の方を向いて、甲高い声で鳴き出した。
 
 
 
「  一体、どうしたって言うんだろう?  まるで、怒っているみたい…。病院に居たかったの?  それとも、病院に、何か言いたいことでも、あるの?  」
 
 
 
彼女が、ミズ ビーの行動に戸惑いながら、ミズ ビーを見ながら、そう言うと、
 
 
彼は、
 
 
 
「  安楽死なんかされてたまるか。本当は、こんなに元気で、吠える事だって出来るんだ。 そう言っているのじゃないか?  」
 
 
 
そう言った。
 
 
彼女は、
 
 
 
「  そうかなぁ…。 あっ、結局、夜から朝にかけて良く眠れるようになる薬の話は無くなっちゃったね。この次、行った時に、話すしかないね。」
 
 
 
そう言うと、彼は、ちょっと間を置いてから、静かに、彼の正面だけを見て、
 
 
 
「  獣医に、安楽死をさせるつもりがないなら、もう来なくていいと言われた。」
 
 
 
そう言った。
 
 
 
「  もう来なくていいって、どう言うこと?  これから先は、獣医には何も出来ないってこと?  それとも、時間とお金の無駄だから、親切心で、そう言っているの?  どうして、あなたにだけ、そう言ったんだろう?  私だって、ミズ ビーの飼い主よ。」
 
 
 
彼女が、ちょっとイライラしながら、そう言うと、彼は、
 
 
 
「  あそこに行って、ミズ ビーみたいに歩けないで飼い主に抱えられた大型犬を見たことがあるか?  ないだろう?  ミズ ビーみたいな犬を、みんなに見せたくないのじゃないか?! 」
 
 
 
そう言った。
 
 

彼女は、そんな時だからこそ、獣医とのコミュニケーションが大切だと思っていた。

 
 
獣医の仕事とは、病気の治療や手術の他にも、ペットの飼い主の気持ちを理解しアドバイスしてくれるものだと思っていた彼女が甘かったのかもしれない。
 
 
実のところ、彼女は、自分のことより、
 
 
ミズ ビーが獣医に見捨てられたような気がして悲しくて、ミズ ビーを不憫に思ったのだった。
 
 
ミズ ビーが、この先、長く生きられないと知っているのに、
 
 
それとも、
 
 
知っているから、 獣医は、あえて、冷たい態度で、そう言ったのだろうか?
 
 
 
「  来るなと言われてまでも、俺は行く気にならない。  これからは、アシスタントと話してくれだってさ。  」
 
 
 
彼は、そう呟いた。
 
 
彼女は、その時、ミズ ビーが鳴いたのは、実は安楽死を望んでいたか、あるいは、その反対で、獣医や病院への怒りだったのではと思ったが、
 
 
ミズ ビーが亡くなってから、
 
 
あれは、もしかしたら、ミズ ビーの獣医への別れの言葉だったのかもしれない………………
 
 

そう思っている。

 
 

 

 
 

 
 
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