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かもめはかもめ

「 昨日、車を停めただけで、ミズ ビーが一緒だったから歩かなかっただろう? 今日はどうだ? 歩きたいか?」

 

ただひたすらに車の窓から海を見ている彼女に、彼は、そう訊いた。

 
 
彼女は、前日、ミズ ビーの納骨箱を膝の上に置いて同じ場所に来たことを思い出し、思わず、クスッと笑った。
 

納骨箱と言えど、車に置いて彼と一緒に外に出て、ミズ ビーの好きだった海風を身体中で受けるなんてミズ ビーに残酷なように思えたし、盗む人などいないと思っても、もし盗まれたらと考えたら、

 
「 私達は、またここに来ることが出来る。。。だから、今日は、ドライブだけにしておこう。」
 
彼女には、そうとしか言えなかった。
 
 

「 うん、歩こう! 今日はミズ ビーはお留守番だものね。」

 
岸壁から海を見下ろすと、多くのカモメ達が海の上で一緒に上手く波に乗っていた。
 
そして、一羽のカモメだけが彼と彼女の近くにいた。
 
彼と彼女が歩き出すと、そのカモメは、飛び去るどころか、彼と彼女の方に向かって歩き通り過ぎ、彼と彼女が立ち止まると、そのカモメも立ち止まった。
 
彼と彼女は、一瞬、お互いの顔を見て微笑み、そして、すぐに、また、そのカモメを見つめた。
 
「 どうして、逃げないのだろう? もしかしたら、、、ミズ ビー、なんじゃない? 」

  

それに応えて、彼は笑い出した。
 
「 ねぇ、ミズ ビーなの? そうなの? 」
 

彼女が、カモメに向かって、そう言うと、カモメは、はにかむように悲しそうな横顔を見せた。

 
「 ねぇ、見た? 見たでしょう? ミズ ビーに、そっくりだったでしょう? やっぱり、ミズ ビー? 」
 
彼女は、近くにいても、決して触れ合えない距離感に哀しさで胸がいっぱいになり、それ以上は何も言えなかった。