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「 行って来るよ。」

 
彼の声で彼女は目が覚めると、彼はコートを着て彼女の顔の方に前屈みになって立っていた。
 
あ〜っ、そうか〜っ、今日は彼の仕事始めだった。。。。
 
そう思いながら、仕事を持たない自分に少し罪を感じながら、彼女は、
 
「 雨、降っている?」
 
と訊いた。
 
彼は、垂直に立って窓の方を向いて、
 
「 降っている。」
 
そう言って、彼女の頭を犬の頭を撫でるようにして片手で撫でた。
 
彼女は、犬のように、乱れた髪をシーツの上に叩きつけるようにして、うつ伏せに成って目を閉じた。
 
そして、
 
雨か。。。。
 
外を歩く必要など無いんだ。。。。
 
そう思うと、少し哀しくなった。
 
ミズ ビーは、雨が降り出す前に、ソワソワして、鼻を鳴らして子供のように泣いた。
 
雨が降り出すと、彼女の顔を見上げて、
 
 
『 だから、言ったでしょう? 雨が降るよって。でも、また無視しちゃったから、雨が降っている時に出かける事になったじゃない? 』
 
 
そう言っているようで、彼も彼女も笑ったものだった。
 
雨が止むまで散歩を待つことなど出来ない。
 
ミズ ビーは生き物なのだから。
 
出かけるのを渋る彼に、
 
 
『 トイレを我慢して辛かった時のことを思い出して!あなたにもあるわよね?!私達は自分達の選択で、トイレに行くことが出来る。だけど、ミズ ビーは私達次第で辛いのを我慢しなければならないわよね。』
 
 
彼女がそう言うと、彼は、レインコートを纏い、ミズ ビーは楽しそうに足を床にタップしたものだった。
 
酷い雨で誰も外に出ていない時でも、ミズ ビーは楽しそうだった。
 
この日のことは忘れないだろうなぁ〜。。。。
 
そう思った雨の日のことが何度かあった。
 
家に戻ると、彼も彼女も急いで濡れたコートと靴を脱いで、早い方がミズ ビーのタオルを取りに走り、遅かった方がミズ ビーを一定の場所で落ち着かせた。
 

ミズ ビーの大判タオルをミズ ビー全体を包むようにしてかけて、顔から両手を使って撫で回す。

 
無音のミズ ビーが心配になって、タオルから顔を出させて見て見ると、とても嬉しそうな顔をしていた。
 
ミズ ビーのタオルだけでは拭き取れなくて、彼と彼女のタオルも使って拭かなければならなくなって、最初の頃は躊躇したものの、
 
『 洗えばいいのだから』

『 家族なんだし』

 

結局、ミズ ビーの可愛さを前にして、2人とも微笑むだけだった。

 
雨は嫌じゃない。
 
ミズ ビーとのあの思いっきり楽しかった思い出がよみがえるから。
 
だけど、哀しい。
 

彼女は、そう思っても、彼には言わないでおこうと思った。

 
なぜなら、
 
彼も同じように辛いと思うから。