アイロン

 
彼女はベッドの上から、彼がアイロンを掛けているのを見ていた。
 
 
アイロン台を置いて、シャツをその上に置き、アイロンをその上から当てて静かに滑らせ、それに集中している彼は、いつもより穏やかで、顔に笑みさえ浮かべていた。
 
 
彼は、彼女に、アイロン掛けを頼んだことは、1度も無かった。
 
 
彼女は、アイロン掛けが大嫌いで、洋服もアイロン掛けを必要とするものは買わない事にしていた。
 
 
彼が彼女にアイロン掛けを頼むことがあったら、彼女は、間違い無く、正直に嫌だと言っただろう。
 
 
しかしながら、彼が彼女に頼まない限り、そんな状況は有り得なかった。
 
 
一緒にショッピングに行った時に、彼がアイロン台を探していることを聞いて、彼女は、ちょっと間を置いた後、
 
 
『 それ、本当に必要な物 ? 』
 
 
と、不思議そうに訊ねて、彼がクスッと笑ったことがあった。
 
 
その後、彼は、彼女に、その事について何も言わなかったが、それだけで、彼が彼女を理解するのは充分だったのかもしれない。
 
 
今夜も、静かに、1人でアイロン掛けかぁ〜、
 
 
そんな風に思いながら、彼女は彼を見ていた。
 
 

彼が、アイロン掛けをしていると、ミズ ビーは、いつも、彼の近くに座り、彼を見上げるようにして見ていた。

 
 
そして、彼女の
 
 
『 ミズ ビーが、すぐ近くにいるから、気を付けてよー! 』
 
 
と、彼に叫ぶ声で、ミズ ビーは彼女を見たものだった。
 
 
ミズ ビーの微笑むような、その顔を見ながら、彼女は、
 
 
『 そこで、そんな風にして、お利口さんに待っていても、何も貰えないよー!』
 
 
そう言って笑った。
 
 
彼女は、彼のアイロン掛けを見ながら、
 
 
癒されるなぁ、、、、
 
 
そう思った。
 
 
そして、以前のように、ミズ ビーが、彼を見上げるようにして見ているような気がした。