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チーズバーガー

彼女は言った。

 
 
 
「 ねぇ〜、何か作ってくれない? 」
 
 
 
彼は、ビックリした顔で、彼女を見つめた。
 
 
 
「 今日の夕食よー! 作る気にも冷凍食品を温める気にも成らない。何か作ってー!」
 
 
 
ぶっきらぼうに、彼女は言った。
 
 
彼は、ニヤーッと口を開けて彼女を見つめるだけで、何も言わなかった。
 
 
 
「 私が作ると言う決まりは無いわけだし、こう言う時に、あなたの出番になっても、ちっともおかしくないじゃない?」
 
 
 
彼女は、そう言って、ふてくされるようにして、リクライニングチェアに両手を広げて体を沈ませた。
 
 
そして、両手をチェアの両脇からダラーンとぶら下げて、
 
 
 
「 今日ね〜、何もヤル気に成れないの、、、、ごめん、嘘つけない。いつもとは違う夕食にしようよ!メイクもオシャレもする気にも成れないから、、、、バーガーでも食べに行こうか?」
 
 
 
冷蔵庫と冷凍庫をドタンバタンと交互に開けて見ている彼に言うと、
 
 
彼は、すぐに彼女の側に来て、
 
 
 
「 いいよ。俺も作る気しないから。」
 
 
 
そう言った。
 
 
 
「 ありがとう。」
 
 
 
彼女は、そう言って、すぐにチェアから立って部屋着の上からコートを被った。
 
 
彼の運転する車から夜の景色を観ながら、彼女が、
 
 
 
「 こんな時、ミズ ビーは後ろの席にいて、顔を出したいから窓を開けろー!って吠えているね。」
 
 
 
そう言うと、彼は、
 
 
 
「 夜のドライブ、好きだったものなぁ〜 」
 
 
 
と言って微笑んだ。
 
 
彼の目が微かに光っているのに気が付いたが、彼女は、そのことには触れず、
 
 
 
「 ミズ ビー! 後ろにいるんでしょう? 夜のドライブ、楽しんでいるんでしょう?!」
 
 
 
後ろを向いて、声を張り上げて、そう言った。
 
 
彼は何も言わなかった。
 
 
彼女は、ミズ ビーが亡くなる前に彼と出会ったことに、あらためて感謝の気持ちで一杯に成った。
 
 
バーガープレイスは、いつも通り、ドライブスルーの長い列が出来ていた。
 
 
 
「 何が欲しい? いつものでいいか? シェイクは? 」
 
 
 
彼が訊いた。
 
 
 
「 バーガーにしようか、、、、しばらく食べていないからチーズバーガーにしようかなぁ〜、、、、」
 
 
 
彼女は、そう言ってから、ある事を思い出して言葉に詰まって下を向いた。
 
 
そして、しばらく2人の間に沈黙があった。
 
 

彼らのオーダーの番が近付いた時に、彼女は、

 
 
 
「 バーガーとフライとシェイク! あなたは?」
 
 
 
そう言うと、彼は、
 
 
 
「 俺も同じだ。チーズバーガーじゃなくてバーガーだな? 」
 
 
 
そう言った。
 
 
 
「 バーガー、バーガー! ノーチーズ! 」
 
 
 
そして、ちょっと間を置いてから、
 
 
 
「 チーズバーガーが最後の食事に成った犬達のことを知ってから、チーズバーガー、食べる気しない。」
 
 
 
彼女が静かに、そう言うと、彼は、
 
 
 
「 俺も同じだ。」
 
 
 
そう言った。
 
 
ミズ ビーが生きていた頃、彼女はライブラリーから、犬のレスキューを長い間している女性のドキュメンタリーのビデオを借りて来て、彼と一緒に観た。
 
 
その女性は、子供の時から、野良犬を無視できず拾って来てはペットにしていた。
 
 
そして、獣医の免許も取り、犬のレスキューを続けている。
 
 
彼も彼女も、その女性が犬と言う生き物をとても愛しているのが嘘でないことをビデオから確信した。
 
 
女性は、他人が捨てたり、一緒に暮らせないとあきらめた一匹、一頭でも何とかして救いたい気持ちで一杯なのだが、まれに、どうしても救えず、安楽死させなければならない犬がいると言うことだった。
 
 
それは年齢や大きさにかかわらず、人や他の犬に対して歯をむき出して吠え立て囓ろうとする犬で、彼女が時間を掛けて落ち着かそうとしても全く効果が表れない場合だそうだ。
 
 
子犬の時から酷い虐待を受けたり、そのために頭を強打して脳に障害が起きてしまったりで、いつも不安で暴力的になってイライラしている犬にとっては、生きている事自体が生き地獄のようなもので、ましてや人間と共存出来ない場合は安楽死しかないと言っていた。
 
 
そして、そんな犬達の最後の食事が、チーズバーガーだった。
 
 
女性は、バーガープレイスに寄って犬のためにチーズバーガーを買う。
 
 
チーズバーガーを美味しそうに食べない犬を女性は見たことが無いからだそうだ。
 
 
安楽死を迎える犬に、女性は涙を流しながら、チーズバーガーをちぎっては放り投げる。
 
 
犬は、
 
 
 
こんな美味しいものは今まで食べたことが無い
 
 
 
と言った感じで、夢中になって、急いで噛り付きながら食べる。
 
 
急いで食べたら、安楽死が早まるのに、急いで食べる。
 
 
まるで、そうしたいかのようにして。
 
 
 
 

『 人間が食べるチーズバーガーが犬の健康に良くないのは知っている。だけど、安楽死を目前としているこの犬には、そんなことは、どうでもいいこと。せめて、犬が美味しいと思えるものを最後の食事として食べさせてやりたい。』

 
 
 
 
女性は、辛そうに、そう言っていた。
 
 
安楽死させられた犬の顔は、微笑んで楽しい夢を見ているかのように優しく穏やかだった。
 
 
そして、同じ犬には見えないほど愛苦しかった。