他者の寿命

彼女は、母の日に、遠くに住んでいる母親に電話をした。

 
 
 
普段なら、滅多に電話に出ない母親が、電話をとったので、
 
 
 
あれっ、、、、やっぱり、母の日の電話を期待していたのかなぁ、、、、
 
 
 
そんな風に、彼女は思った。
 
 
 
相変わらず、自分中心に話す母親だったが、しばらく話していなかったのと、『母の日』と言うこともあって、その日は、グッとこらえて怒らず意見せずの聴き役になる事にした。
 
 
 
そうした理由の根底には、
 
 
 
彼女自身も、
 
 
 
もう若くは無いんだ、
 
 
 
そう思うゆえに、
 
 
 
彼女より年上の両親が、
 
 
 
今の自分達の年齢を考え、
 
 
 
今迄の人生を振り返り、
 
 
 
そして、
 
 
 
これからの人生を考える時、
 
 
 
哀しい気持ちになるのではないか、
 
 
 
そう思うからだった。
 
 
 
彼女の母親が、今より、ずっと若くてハツラツとしていた時は、近所のお爺さんやお婆さんが亡くなっても、
 
 
 
 歳だから、仕方が無いとか、
 
 
 
あの歳まで生きたら、大往生でしょうとか
 
 
 
言っていたけれど、自分が、その年齢に近く成っている今は、そう思いたくないようだった。
 
 
 
近所の奥さんが、長い間、看病していた義母さんが亡くなって、母親に、
 
 
 
「 あの年齢まで生きたら、大往生だよね。」
 
 
 
と、同意を求めて来たそうだ。
 
 
 

その義母さんより長く生きたいと思っている母親は、その奥さんに、

 
 
 
「 なんて言うことを! 今は、義母さんより、もっと長生きしている人達が多くいますよ!」
 
 
 
と言って、その奥さんを不機嫌にさせてしまったそうだ。
 
 
 
自分の義母が亡くなった時は、その奥さんと同じことを言ったにもかかわらず、今では、老人達の味方みたいに成っている母親を、相変わらず、自己中心的と思い、可笑しくなるのと同時に、
 
 
 
母親が、老人達に仲間入りしたように思えて、彼女は、虚しさを感じた。
 
 
 

平均寿命より長生きした昔堅気の彼女の祖母は、生前、

 
 
 
「こんなに長生きして、恥ずかしい、
 
お迎えが来るのを待っているのだけれど、来てくれないの」
 
 
 
そう言っていた。
 
 
 
彼女は、悲しくなって、
 
 
 
「おばあちゃん、そんなことを、お願いだから思わないで! 今迄、たくさん苦労したのだから、楽しめばいいじゃない? 長生きすることは恥ずかしいことじゃないよ!だから、長生きしてね!」
 
 
 
そう言ったものだった。
 
 
 
ミズ ビーが、亡くなる前に、獣医に行った時に、待合室にいた女性に、ミズ ビーの年齢を訊かれて、
 
 
 
15歳だと言うと、その女性は、
 
 
 
「 大型犬で、その年齢まで生きたら充分でしょう? 新しい犬を探したら!」
 
 
 
そう軽く言った。
 
 
 

大型犬で15歳だから、充分、生きた?

 
 
 
ミズ ビーが、そう思ったとは思えない。
 
 
 
彼女は、もっともっと一緒に生きる年月が欲しかった。
 
 
 
その女性は、彼女を元気づけるために、そう言ったのかも知れない。
 
 
 
しかしながら、
 
 
 
その女性が、彼女の気持ちを思いやるのであれば、、、、
 
 
 
何も言わず、
 
 
 
暖かい目で、
 
 
 
静かに、
 
 
 
見守っていて欲しかった、
 
 
 
そう彼女は思った。