Gooood Dog !

朝遅くまでベッドの上で愚図ついていた彼女に、彼は出かける前のキスをしに来た。

 
 
 
玄関ドアで、お見送りが出来ないことに、少しだけ申し訳ないと思いながら、その感情をあたかも隠すかのようにして、彼女は、
 
 
 
「 歩いた?」
 
 
 
と、全く関係の無いことを彼に訊いた。
 
 
 
彼が、ちょっと間を置いた後、クスッとかすかに笑うか、溜め息をついて、
 
 
 
「 歩くわけないだろう?」
 
 
 
とでも言うのではないかと予想していたのだが、
 
 
 
彼は、
 
 
 
間を置くことも、
 
 
 
笑うことも、
 
 
 
溜め息をつくことも無しに、
 
 
 
すぐに、
 
 
 
「 うん、歩いた。、、、、ミズ ビーと歩いた。、、、、夢の中でね。」
 
 
 
はにかむようにして、そう言った。
 
 
 

冗談でも嘘でも無いことに気づいた彼女が、

 
 
 
 
「 へぇ〜〜っ、、、、ミズ ビーの夢を?、、、、 滅多に夢を見ないって言っていたあなたが? 、、、、どんな夢だった?」
 
 
 
 
と、彼の顔を見上げながら、そう尋ねたら、
 
 
 
彼は彼女とは目を合わさず、下を向いて微笑んだ後に、
 
 
 
 
 
「 一緒に歩いている夢だったよ。それで、ミズ ビーが、いつものように、お尻を丸めて、大きい方をしてさ、俺が、
 
 
 
 
『Gooood Dog! 』
 
 
 
 
って言ったんだ。、、、、それだけの短い夢だった。」
 
 
 
 
 
そう言って、短く笑った。
 
 
 
彼女は、言葉に詰まって何も言えず、彼を見て微笑んだ。
 
 
 
ミズ ビーは、どんな天気の時であっても、外でしかトイレをしなかった。
 
 
 
彼女が早朝に起きない場合は、彼は1人でミズ ビーを外に出して一緒に歩いた。
 
 
 
そして、彼とミズ ビーが帰宅すると、彼と彼女は、どちらともなく、ミズ ビーのその朝のトイレの話をした。
 
 
 
なぜなら、ミズ ビーの健康管理をする上で、それが1番大切なチェックポイントだと、2人とも思っていたからだった。
 
 
 
 
「 ミズ ビー、 した?」
 
 
 
 
と、彼女が尋ねなければ、彼の方から、
 
 
 
 
「 ミズ ビー、したよ。」
 
 
 
 
とかと始まって、
 
 
 
大きさ、色、形、数、やわらかさなどのその物の状態だけで無く、
 
 
 
歩いてから、どの位の時間が経ってからで、どの位の時間をかけて、どのようにしたのかと言ったことが話された。
 
 
 
その中でも、2人にとって1番大切なことは、ミズ ビーがしたかどうかだったから、
 
 
 
彼にとっては、特に、1人でミズ ビーを歩かせた時は、ミズ ビーがするまで家に帰れないと言うプレッシャーがあったに違いない。
 
 
 
それゆえ、
 
 
 

ミズ ビーが亡くなってから、1年半近く経つ現在においても、ミズ ビーが大きい方をしたのを夢の中で見て、嬉しくなって、

 
 
 
 
『 Gooood Dog ! 』
 
 
 
 
と言ったのだろうと、彼女は思った。
 
 
 
それと同時に、
 
 
 
もう、2人とも、その言葉を言えない、言う必要が無いことが哀しかった。
 
 
 
それは、彼も、同じように思ったことだろうと思ったが、訊かなかった。
 
 
 
訊けなかった。
 
 
 
 
 
それにしても、なぜ、彼が1人で朝に歩くような人ではないことを知っていながら、
 
 
 
「 歩いた?」
 
 
 
などと、訊いたのだろう?
 
 
 
 
 
彼女が、そう思っていると、ミズ ビーの笑っている顔のイメージが頭の中に現れて、
 
 
 
 
 
やっぱり、ミズ ビーは、2人を今でも繋いでくれている、、、、
 
 
 
 
 
そんな風に思えた。