Ant-Man に成る時

彼が出かけてから、彼女はテレビの前の椅子に腰掛け、ブレックファースト バーを嚙り出した。

 
 
 
シュガーいっぱいの、そんな朝食を続けていたら、体に良くないのではないかと思いながら、ふと足下を見ると、小さな物体が食べ物のかけららしき物と一緒に動きながら、彼女の前を通り過ぎた。
 
 
 
ブレックファースト バーをコーヒーテーブルの上に置き、椅子に座りながら、前屈みに成って顔だけ、その物体に近付けて見ると、蟻が、チップスの欠片を上方に抱えるかのようにして、ゆっくりではあるけれど、歩を進めながら歩いていた。
 
 
 
「 ヨッコラショ!、、、ホッコラショ!、、、ちょっと止まって、ヨッコラショ!、、、」
 
 
 
そんな風に、彼女は、その蟻に声をかけた。
 
 
 
 
待てよ、、、、1匹いると言うことは、、、、
 
たーーーーくさん、いるってことじゃない?
 
 
 
 
団体行動をすることで有名な蟻が1匹でいるわけはないと思うと、ゾーッとして、慌てて椅子から立ち上がり、その辺りを見渡した。
 
 
 
最初に、その蟻が向かう方を見てみたが、仲間を見ることは無かった。
 
 
 
その蟻が、抱えていたのが、彼が前夜に食べたチップスの破片だったことは間違い無いと思った彼女は、彼が、チップスをボウルに移す場所から、テレビの前の彼の座った椅子までの経路を見ることにした。
 
 
 
そして、その経路のちょうど中間あたりの所に、蟻達が他のチップの小さい破片の回りを囲んでいるのと、そこから、蟻達の長蛇の列が出来ているのを見て、彼女は、思わず、
 
 
 
「 オー! マイ!、、、、」
 
 
 
と言葉をもらした。
 
 
 
その後、その列が何処に通じているのかと、なるべく音を立てないようにして後を付けるようにして、、、
 
 
 
と言うより、
 
 
 
自分が空を飛ぶドローンになった気持ちで、蟻達の進む方向を見ながら、辿り着いた所は、玄関ドアと床の間だった。
 
 
 
彼女の目からは、そこには、隙間などあるようには見えなかったが、蟻達にとっては、充分大きな隙間なのかもしれなかった。
 
 
 
ところが、その辺りにいる蟻達は、チップの破片を外に持って行けなくて困っているようだった。
 
 
 
 
「 チップを持って行くのを諦めればいいのに、、、、そうすれば、外に出られるのに。ここまで、みんなで力を合わせて運んだ報酬を無駄には出来ない、そんな風に思っているのかなぁ、、、、」
 
 
 
 
彼女は、そう言いながら、彼に対して苛ついた。
 
 
 
結局は、彼が、チップスの破片を床に落として取り上げなかったから、蟻達が外から入って来たのだ。
 
 
 
彼に、そのことについて、メッセージを送ると、彼は驚きもせず、
 
 
 
『 帰ったら、その隙間を埋めれるか見て見るよ。』
 
 
 
とメッセージが返って来て、蟻に対してのコメントは何も無かった。
 
 
 
彼女の前を1匹でチップの破片を抱えて通り過ぎた蟻は、玄関ドアには向かっていなかったし、彼女が軍団をチェックしていた間に、何処かに行ってしまっていた。
 
 
 
玄関ドアで蟻達が囲んでいたチップを彼女が思い切って爪で掴んで持ち上げると、蟻達は、パラパラと木から葉が落ちるようにして、すぐにチップから離れた。
 
 
 
これは、彼女にとっても驚きだった。
 
 
 
チップに命をかけているかのように見えた蟻達は、彼女が持ち上げたチップをキープするために、彼女の指を攻撃するのではないかと予想していたからだ。
 
 
 
 
『 なんて、ピースフルで働き者な生き物なのだろう!』
 
 
 
 
彼女は、そう思い、それまで蟻に対して持っていた自分の無知を恥じた。
 
 
 
彼が帰宅してから、その一連の出来事と彼女が思ったことを話した。
 
 
 
彼は、下を向いて、微笑んだ後に、ポール ラッド主演のアメリカ映画 Ant-Man について話し出した。
 
 
 
 
「 ポール ラッドが、Ant-Man の蟻男に成ってから、蟻を家の中で見ても、その内、外に帰って行くさと思って殺せないんだとインタビューで話していたよ。映画の中で蟻達が蟻男に成った彼を助けるんだそうだ。」
 
 
 
 
 
蟻の立場で考えたら、
 
 
 
ましてや、自分に害が無いのなら、
 
 
 
虫だから、
 
 
 
多くいるから、
 
 
 
それだけの理由で殺してはいけない、
 
 
 
むしろ、どうやって助けられるかを考えよう、
 
 
 
そんな風に、彼女は思った。
 
 
 
そして、彼に、
 
 
 
 
「 あの1匹で、あなたのチップの小さな破片を運びながら、私の前を通り過ぎて、何処かに消えてしまった蟻は、もしかしたら、ミズ ビーだったのじゃないかなぁ、、、、って思ったりして、、、、」
 
 
 
 
と言うと、彼は、
 
 
 
「 そうだったのかも知れないなぁ〜、、、、」
 
 
 
そう言って、空気を見た。