カラス

彼女が子供だった頃、『か』から始まる言葉はと訊かれたら、『かめ』と 『からす』を最初か、その次あたりに言ったものだった。

 
 
『かめ』は、ペットとして飼うか、動物園にでも行かなければ見られなかったのに、そのゲームにとっては、必要不可欠な言葉のメンバーだった。
 
 
 
『からす』は、外から、
 
 
 
カーー、カーーー!
 
 
 
と、鳴く声が聞こえて、
 
 
 
「 からすーー!」
 
 
 
と窓越しに、カラスに感謝したい気持ちで言ったのが始まりだった。
 
 
 
カラスを嫌う人達は多い。
 
 
 
外に置いたゴミをあさるからとか、
 
 
 

野良猫が産んだ仔猫を攻撃して食べるからとか、

 
 
 
不吉な鳥だと聞いたからとか、
 
 
 
多くの人達は、良いイメージを持っていない。
 
 
 
そんな人達とは反対に、
 
 
 
彼女は、その言葉遊びの時から、密かに、カラスを好いている。
 
 
 
それは、自分もペットも攻撃されたことは無く、
 
 
 
黒くて醜いと言う人達とは反対に、
 
 
 
黒くて美しいと思えるだけでなく、
 
 
 
不思議と、
 
 
 
彼女にとっては、今まで生きた人生の中で、
 
 
 
哀しかったり、
 
 
 
寂しかったり、
 
 
 
辛かった時に、
 
 
 
カラスが彼女の前に登場することが多々あったからかもしれない。
 
 
 
カラスを見て、
 
 
 
「 わぁ〜っ、カラス! 好きー!」
 
 
 
そんな風には、彼女のことを良く知っている彼の前でも言ったことは無い。
 
 
 
それゆえ、カラスを見たら、
 
 
 
「 わぁ〜っ、カラス!」
 
 
 
で止めて、一緒にいる人から顔を背けて、声を立てずに、ニンマリするのだった。
 
 
 
ついこの間も、外で騒音がして、ちょっと心が辛くなって来た時に、突然、カラスが現れて、家の前で騒音を立てている人に抗議するかのようにして、大きな声で鳴いていた。
 
 
 
それを見て、彼女は、思わず笑った。
 
 
 
そして、カラスに守られているような気がして、その辛さが、信じられないほど、一気に軽くなった。
 
 
 
カラスと言うより、犬みたい、、、、
 
 
 
そんな風にも思った。
 
 
 
それまで、そのカラスを見た事は無かった。
 
 
 
カラスは、とても頭の良い生き物だと聞いたことはあったけれど、彼女の心を読んだかのようにしてのそのような行動を、彼女は実際に何度も見ていた。
 
 
 

そして、

 
 
 
カラスに対して好意を持ってリスペクトすればするほど、カラスも彼女に対して、同じようにしてくれるような気がしてならない。
 
 
 

その出来事があって、しばらく経ってから、車でマーケットまで出かけた。

 
 
 
車を駐車場に停めて、マーケットに入って出て来ると、一羽のカラスが彼女の車の後方に立っているのが見えた。
 
 
 
彼女が、笑顔で、その方向に歩き出すと、カラスは、彼女の方にホップしながら歩いて来た。
 
 
 
「 ハーイ!カラス!ハウ アー ユー?」
 
 
 
カラスを見ながら、そう言うと、
 
 
 
カラスは、ちょっと首を傾げた後に、彼女との間が1メートル程の距離に成った所で、上方に飛びだった。
 
 
 
彼女は、その方を見上げて、
 
 
 
車をガードしてくれていたんだね?!
 
 
 
そう心の中で呟いた。
 
 
 
そのカラスが家の前にいたカラスだろうとは思わなかったが、
 
 
 
もしかして、
 
 
 
車の上を飛びながら付いて来たのかなぁ?
 
 
 
と思えないことも無かった。
 
 
 
 
 
その日から、家の周りでも、車で出かけても、カラスを見ていない。
 
 
 
彼女は、正直言って、マーケットの前で、カラスと出会った時に、カラスに、もっと話し掛けたかった。
 
 
 
しかしながら、
 
 
 
その場面を想像すると、
 
 
 
他の人間達には、とても滑稽に見えるだろうから、
 
 
 
カラスは、むしろ、
 
 
 
 
「 あなたの気持ちはわかったから、これ以上、話しかけないで!それが、あなたのためでもあり、私のためでもあるの。」
 
 
 
 
そう言いたかったのではないだろうか?
 
 
 
そんな風に、彼女は思っている。