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長生きしてね!

彼は、いつに無く、無謀な運転をして、彼女を驚かせた。

 
 
 
「 急に、どうしたって言うの? 」
 
 
 
と、彼女が訊ねると、
 
 
 
無謀な運転を続けながら、
 
 
 
「 前の車が、イライラさせたんだよ。俺が車線を変えると、あいつも、そうして、わざと邪魔するかのようにして、、、、」
 
 
 

苛つきながら、速度を上げた。

 
 
 
「 止めなさいよー! 罠かもしれないじゃない? そうして、あなたを怒らせて、その場面をYoutube に載せたりするつもりなのかもしれないじゃない? そう言うの、最近、凄く増えているって言ったでしょう?!」
 
 
 
彼女が、そう言うと、彼は、落ち着きを取り戻した。
 
 
 
 
「 考えてもみてよ! 他人の嫌がらせに動かされて、結局、損をするのは私達なんて、冗談じゃないわよー! 車のダメージだけで無く、私達が怪我したり、動けなくなったら、どうするつもりよー! 絶対、後悔するわよねー?!」
 
 
 
 
アメリカでは、同じ道路で車を走らせている人達が、何らかの理由のために、車を使っての喧嘩に成り、その為に、車のダメージだけでなく、車から下りて、殴り合いや銃撃戦になる事件が毎日、起こっていて、最近では、その件数が最高数に達し、日毎に増える一方だと言う事だった。
 
 
 
社会全体が、怒っている人達でいっぱいになっている。
 
 
 
その為に、命を落としてしまった人達の話を聴く度に、彼女は、
 
 
 

『 運が悪かった。その人が、その時、その場に居なければ、そんなことには成らなかったのに、、、。』

 
 
 
だけとは、思えないのだった。
 
 
 
争いは、2台の車の間で起こるのが大半であるから、イラつかせた方も、それによって、イラついた方も、その両方に多かれ少なかれ非があるように思う。
 
 
 
どちらかが、争いを避けようとすれば、喧嘩には成り得ない。
 
 
 
しかしながら、
 
 
 
事が始まってから、なるべく早くに行動を起こさなければ、もう一方の怒りが抑えきれない状態に達してしまっていて、結局は、取り返しのつかない結果となってしまう。
 
 
 
車の車体が自分を守ってくれるからとか、
 
 
 
まさか、自分の車にダメージを与えてまで、他人の車をダメージにかかることは無いだろうと思う楽観的な思想は、ここでは通じない。
 
 
 
歴史的にも、戦争大好き、銃大好きで名高い国に住む人達の思想が、そう簡単に変わるわけは無いのだから。
 
 
 
そう言った事件のほとんどは、全く知らない他人同士のものであるが、時には、それを利用して、そう見せかける事件や、
 
 
 
誰もが携帯カメラを持っている今は、Youtubeに、何か面白い場面をキャッチして載せたいと思う人達が多いために、事件を仕掛ける悪い奴等も増えている。
 
 
 
彼も、言葉に出して、全て言うような人ではないからこそ、ストレスが溜まっているのかもしれなかった。
 
 
 
その為に、その嫌がらせに我慢が効かなくなったのかも知れない。
 
 
 
ミズ ビーが生きていたら、
 
 
 
『 ミズ ビーが、私達を喪ったら、誰も面倒みてくれる人がいないのよー! 思いっ切り不幸な犬に成っちゃうのよ!』
 
 
 
そんな風に言っているのだろうなぁ〜と彼女は思った。
 
 
 
しかしながら、
 
 
 
彼に、それは言わず、
 
 
 
「 ねぇー、長生きしてよー! お願いだから、長生きしてー!」
 
 
 
とだけ言った。
 
 
 
彼は、静かに、
 
 
 
「 うん、、、、長生きするよ。」
 
 
 
そう言った。
 
 
 
『 長生きするんだよ! マミーのために、長生きしてよ!』
 
 
 
そう言えば、この言葉、ミズ ビーに、よく言っていたなぁ、、、、
 
 
 
ミズ ビーの目を正面から見ながら、そう言っていた場面を客観的に思い浮かべたら、
 
 
 
ポロポロと涙が出て来た。
 
 
 

その後、しばらく、彼と彼女の間には沈黙があった。

 
 
 
彼女は、その沈黙が嬉しかった。